
糖尿病の合併症
糖尿病の合併症
血糖値が高い状態が続くと血管が傷ついていきます。とくに細い血管(毛細血管)は影響を受けやすく、毛細血管が集中する網膜、腎臓、手足の神経に早いうちから障害が現れてきます。これが三大合併症(細小血管障害)といわれる「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」です。
また、高血糖の状態は毛細血管だけではなく、太い血管にも影響を与え、大血管障害と呼ばれる脳梗塞や心筋梗塞など、命にかかわる重大な病気を引き起こすこともあります。
高血糖の状態を放置しておくと、失明、透析、手足の壊疽(えそ)などを引き起こす可能性もありますので、きちんと治療を受け、合併症を予防していくことが重要です。
糖尿病性神経障害は、糖尿病の3大合併症の一つで、長期間の高血糖状態が全身の神経にダメージを与える疾患です。感覚神経、運動神経、自律神経に影響を及ぼし、手足のしびれや痛み、感覚鈍化、立ちくらみ、消化不良、発汗異常など多様な症状を引き起こします。血糖コントロールが最大の予防策とされ、症状に応じた治療が必要です。
高血糖状態が続くと、末梢神経に「ソルビトール」という物質が蓄積され神経細胞が障害され神経障害が起こります。手足の先から左右対称に出ることが特徴的です。
糖尿病性神経障害が進行すると痛みや温度に対する感覚が鈍くなったりします(けがや火傷の痛みに気づかないなど)。特に糖尿病の足では、微小循環障害もあり、壊疽(組織が壊死する状態)に至ることがあります。場合によっては足の切断を余儀なくされる場合もあります。足先が紫色や黒く変色する場合は、速やかに医師に相談することが重要です。
自律神経は心血管、消化管、膀胱など臓器の調節をしており、そこが障害されると発汗異常、胃腸症状、排尿障害、勃起不全、立ち眩み、無痛性心筋梗塞などの症状が現れます。
神経障害の程度を調べるために、アキレス腱反射、振動覚検査、触覚、痛覚検査、神経伝導検査などを行います。
神経障害の初期は自覚症状がなく、振動覚の低下を認める。その後、神経障害が進行すると、感覚障害(手足のしびれ)→自律神経障害(起立性低血圧、発汗異常、便通異常)→下肢筋力低下の症状が現れてくる。
①原因治療:
血糖変動を考慮した血糖管理、生活習慣の改善(血圧管理、禁煙、禁酒、体重維持など)、初期にはエパルレスタットを使用
②対症療法:
プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチン、アミトリプチリンなどを併用し、必要な場合はトラムセット(トラマドールとアセトアミノフェンの配合薬)を使用する。支持療法としてノイロトロピン、牛車腎気丸、芍薬甘草湯、消炎鎮痛薬などを併用する。急性症状にはメキシレチンを使用する。
③フットケア:
定期的な足の観察、爪や胼胝のケア、足病変のケアを行う。
糖尿病性神経障害は、進行するにつれて日常生活の質に大きく影響を与える可能性があるため、早期の発見と適切な治療が重要です。血糖値の厳密な管理と、定期的な検査が予防と進行抑制の鍵となります。
糖尿病性網膜症は、糖尿病によって網膜の毛細血管が傷つく病気です。初期には自覚症状が乏しいため、知らないうちに進行することが多いです。進行すると視力低下や眼内出血を引き起こし、重症化すれば失明に至ることもあります。日本人の失明原因の第2位を占めています。
日本糖尿病眼学会ホームページ
糖尿病性網膜症は、進行度に応じて3つの段階に分類されます。それぞれの段階について以下に説明します。
①単純網膜症:網膜に小さな出血が生じ、これを点状出血といいます。硬性白斑とは、血液中の脂肪などの成分が網膜にしみとして残った状態を指します。初期段階であり、自覚症状はほとんどありません。
②前増殖網膜症:網膜の血管が固まり、網膜に綿花状のしみ(軟性白斑)が現れます。これは網膜への血流が悪化し、血管が詰まった結果、酸素不足が進んでいる状態を示します。この段階でも自覚症状がないことが多いですが、網膜へのダメージが進行しています。
③増殖網膜症:網膜の酸素不足を補おうと異常な新生血管が現れます。新生血管は非常に弱く、破れることで硝子体出血を引き起こします。この段階になると、視力低下や視野に黒い影が現れるなどの自覚症状が出ます。放置すると網膜剥離や血管新生緑内障に進み、失明のリスクが高まります。
①眼底検査を定期的に受ける:
糖尿病と診断されたら、自覚症状がなくても眼底検査を定期的に受け、網膜の状態を確認しましょう。初期段階では症状が現れないため、検査で早期発見することが重要です。医師の指示に従い、半年~1年に1回の検査を受けることをおすすめします。
②血糖コントロールを徹底する:
血糖値を良好に保つことで、網膜症の進行を遅らせることができます。食事療法、運動療法、薬物療法を継続的に行いましょう。HbA1c値を目標範囲に保つよう努力してください。
糖尿病性網膜症は、増殖網膜症の段階になると視力低下などの症状が現れますが、その前に発見し治療を行うことが視力を守るカギです。血糖値の管理を徹底することで、網膜症の進行を予防・抑制できる可能性が高まります。
糖尿病腎症は、糖尿病の合併症の一つで、腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。腎臓には糸球体と呼ばれる血液をろ過する毛細血管のかたまりがあり、体内の老廃物を排出する重要な役割を果たしています。しかし、高血糖の状態が続くと、この糸球体の毛細血管がダメージを受け、正常に血液をろ過できなくなります。その結果、尿中にアルブミン(たんぱく質)が漏れ出すようになります。放置すると腎臓の機能はさらに悪化し、最終的には人工透析が必要な状態に至ることがあります。
正常な腎臓では糸球体の毛細血管は傷んでおらず、アルブミン(たんぱく質)は漏れません。
糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、腎臓内の糸球体の毛細血管に大きな負担がかかり、傷つきやすくなります。その結果、通常は尿に含まれないアルブミン(たんぱく質)が尿中に漏れ出てきます。これをアルブミン尿と呼びます。
初期段階では自覚症状がほとんどありません。自覚症状が現れる前に、定期的な検査で早期発見することが非常に重要です。
正常 | 早期腎症 | 顕性腎症 | |
---|---|---|---|
尿中アルブミン | 30未満 | 30〜299 | 300以上 |
mg/g・Cr
糖尿病性腎症ではまず出てくる症状がアルブミン尿です。
日本の人工透析の原因は、糖尿病腎症が最も多く、現在も増加し続けています。継続的な血糖コントロールと定期的な尿検査を行っていくことが大切です。
Araki, S et al, :DIABETES, 56, 1727(2007)一部改変
尿蛋白が50%以上減少した群では透析リスクが59%減少しています。尿蛋白の減少が期待できる薬剤(SGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬など)を使用することも有用です。
腎不全 | 正常 | 軽度 | 中等度 | 高度 | 末期 |
---|---|---|---|---|---|
GFR | 89〜60 | 59〜45 | 44〜30 | 29〜15 | 15未満 |
mL/min/1.73㎡
アルブミン尿が多い程、腎機能の低下速度が速くなる。腎機能の悪化を防ぐためには、アルブミン尿を減らすことが重要になってくる。
The New England Journal of Medicine. 1993;329:977-986.
この研究では、日本の8つのコホート研究を統合し、約33万人を対象に糖尿病とがん発生リスクの関連を分析しています。結果として、糖尿病の罹患歴がある場合、全がんのリスクが約20%上昇し、特に結腸がん、肝臓がん、膵臓がんで有意なリスク増加が認められました。
この2022年のメタアナリシス研究では、がんと既存の糖尿病を有する10,536人を対象に、HbA1c値とがんの予後との関連を分析しています。結果として、HbA1cが7%以上の場合、全死亡率、がん特異的死亡率、がん再発リスクがそれぞれ有意に増加することが示されました。ただし、これらの関連性は観察的研究に基づくものであり、因果関係を明確に示すものではないとされています。
糖尿病患者の死因第2位は感染症によるものです。中村二郎らの報告によると糖尿病患者の感染症による死因は全ての年代において非糖尿病症例より高く、50代以下では非糖尿病症例の2-3倍高いとされています。
参考:https://www.jds.or.jp/uploads/files/article/tonyobyo/67_106.pdf
糖尿病患者は易感染性であり感染による重症化、遅延化しやすいです。局所感染により全身感染症に進展して排血症を起こす可能性も高いとされています。実際、敗血症患者の2割超の方が糖尿病を基礎疾患としているとの報告があります。感染症にかかると血糖値が高くなりやすくそれによって感染症がさらに悪くなる悪循環に陥り治癒に時間がかかります。虫刺され、引っ掻き傷、小さな発疹などから適切なケアや抗菌薬による治療が必要な場合があります。毎日体を観察して気になることがありましたらご相談してください。
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