
糖尿病の治療
糖尿病の治療
健康な高齢者は7.0%未満を目指します。ただし、低血糖のリスクがある場合は、6.5%を下限とします。また、75歳以上の方や認知症、生活機能の低下を認める場合は、7.0%が下限となります。
日本糖尿病学会「糖尿病の死因に関する調査委員会」
日本人の糖尿病症例の平均死亡時年齢は、男性74.4歳、女性77.4歳で、前回調査と比べて男性で3.0歳、女性で2.2歳、それぞれ延命していることが示されています。
これは、日本人一般の平均寿命の伸び(男性2.0歳、女性1.4歳)よりも大きい。日本人一般の平均寿命と糖尿病症例の平均死亡時年齢の差は縮まってきています。これらのデータは、糖尿病治療の進歩を示す重要な指標と考えられます。
①早期診断と予防の強化:糖尿病の早期発見が進み、適切な治療が早期から開始されることにより、合併症の予防が可能になっています。
②治療薬の進化:GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といった新しいクラスの薬剤が登場し、低血糖を起こさない血糖管理に加え、心血管リスクの低減や腎保護作用も得られるようになりました。
③医療技術の向上:インスリンポンプや持続血糖測定(CGM)といった技術が普及し、より安定した血糖管理が可能になっています。
次の中から選択していきます。
2型糖尿病治療の薬物療法のアルゴリズム(第2版)糖尿病治療ガイドより
効果 | 容量依存的に血糖値が下がる。数日で効果あり。 |
---|---|
副作用 | 下痢、乳酸アシドーシス。 |
安全性 | 腎不全には使いにくい。低血糖リスク低い |
飲み方 | 1日2〜3回 |
特徴 | 安い。早く良く効く。世界で最も処方されている。 |
作用機序 | 肝臓で糖産生を抑える。筋肉へ糖を取り込み、糖を便に排出。 |
エビデンス | 心血管イベントや全死亡率を低下させた。 |
効果 | 空腹時血糖値と食後血糖値を抑える。数日に効果でる。 |
---|---|
副作用 | 便秘。 |
安全性 | 低血糖リスク低い。 |
飲み方 | 1日1〜2回 |
特徴 | 副作用が少ない。 |
作用機序 | 血糖値が高い時にインスリン分泌を促進。 |
エビデンス | 心血管リスクを上げずに血糖値を下げる。 |
効果 | 血糖値は全体的に下がる。体重減少。 |
---|---|
副作用 | 尿路・性器感染症。頻尿、尿糖+ |
安全性 | 低血糖リスク低い。 |
飲み方 | 1日1回。 |
特徴 | 生命予後改善効果がある。 |
作用機序 | 尿から糖を排泄させる。 |
エビデンス | 強い心保護作用、腎保護作用がある。 |
効果 | 空腹時血糖値と食後血糖値を抑える。食欲抑制、体重減少 |
---|---|
副作用 | 嘔気、下痢、便秘 |
安全性 | 低血糖リスク低い。 |
飲み方 | 朝食前に服用し30分以上絶飲食。 |
特徴 | 強い血糖低下作用。食欲低下、体重減少 |
作用機序 | GLP-1作用でインスリン分泌↑、胃腸運動低下し、食欲低下。 |
エビデンス | 心血管イベントの抑制効果が期待されています。 |
効果 | 空腹時や食後の血糖値を抑制 |
---|---|
副作用 | 嘔気、下痢、(特にメトホルミン併用時に注意) |
安全性 | 低血糖リスク低い。 |
飲み方 | 1日2回 |
特徴 | 2021年に承認された新しい作用機序を持ち、日本でのみ使用可能 |
作用機序 | ミトコンドリア機能改善し、グルコース濃度依存的にインスリン分泌促し、インスリン抵抗性改善する。 |
エビデンス | HbA1cの低下、空腹時血糖値の低下。膵保護作用。肝機能や体重への好影響。 |
効果 | 食後の血糖値を下げる。 |
---|---|
副作用 | おなら、下痢、お腹のはり |
安全性 | 低血糖リスク低い。 |
飲み方 | 1日3回、食直前。 |
特徴 | 耐糖能異常における糖尿病発症抑制にも適応 |
作用機序 | 糖の吸収を遅らせ、食後の血糖値を抑制する。 |
エビデンス | 糖尿病の発症予防効果あり。 |
効果 | 食後の高血糖を改善 |
---|---|
副作用 | 低血糖 |
安全性 | 低血糖リスクあり。 |
飲み方 | 1日3回、食直前。 |
特徴 | 作用時間が短い |
作用機序 | 短時間インスリン分泌促進させる |
効果 | インスリン抵抗性を改善する |
---|---|
副作用 | 浮腫、体重増加、骨折 |
安全性 | 膀胱がんリスク上昇の報告あり |
飲み方 | 1日1回 |
特徴 | インスリンの作用が低下している肥満に使用する。 |
作用機序 | インスリン作用を助け、糖の利用を高める。脂肪に糖を取り込む |
エビデンス | 動脈硬化を抑える。 |
効果 | 強い血糖低下作用 |
---|---|
副作用 | 低血糖、体重増加 |
安全性 | 低血糖リスク高い。 |
飲み方 | 1日1回 |
特徴 | 安価、血糖低下作用は強い。 |
作用機序 | 強力にインスリン分泌促進させる |
エビデンス | 細小血管障害の抑制効果 |
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、食後に小腸から分泌されるホルモンで、すい臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合することでインスリンの分泌を促し、血糖値を下げる働きがあります。さらに、食欲の抑制、体重減少、胃内容物の排出を遅らせる作用も持つことから、糖尿病治療や肥満治療で注目されています
GLP-1治療は、GLP-1受容体作動薬を使用して体内のGLP−1濃度を高め、イスリン分泌を促進し血糖値の上昇を抑制する治療法です。主に内服薬での血糖管理が困難な2型糖尿病の患者や早期の段階での治療として選択されます。治療は通常、週1回の注射で行われることが多く、高齢者や認知症の方でも継続しやすいのが特徴です。
①高い血糖低下作用:GLP-1を介してインスリン分泌を促進し、効果的な血糖低下作用が得られます。
②低血糖のリスクが少ない:GLP-1受容体作動薬は空腹時には作用せず、食後に血糖値が上昇する時に働くため、低血糖を起こしにくい。
③体重減少効果:食欲中枢に働きかけ、食欲を抑制し、摂取エネルギーを減少させることで体重減少効果も期待できる。
①消化器症状:最も多い副作用は嘔気で、特に投与初期に見られることが多いです。そのほか、下痢や便秘、腹痛、腹部膨満感などの消化器症状も頻繁に報告されていますが、治療を続けるうちに軽減する傾向があります。
②食欲低下:食欲抑制効果が強すぎる場合、過度の食欲低下が現れ治療継続が困難となることがあります。
③注射部位の反応(少ない):注射薬を使用する場合、注射部位の腫れやかゆみ、紅斑などの局所的な反応が起こることがあります。
①経口薬の場合:経口薬のリベルサス(セマグルチド)が使用されます。毎朝、起床時に服用後、30分以上の絶飲食時間を設ける必要があり、服用方法に注意が必要です。効果は注射薬にやや劣ります。
②痩せ型や高齢者:消化器症状の副作用が少なく、体重減少効果も少ないトルリシティ(デュラグルチド)がよく使われます。安全性が高く、忍容性に優れているため、これらの患者に適しています。
③肥満体型の方:食欲抑制効果が強いオゼンピック(セマグルチド)が適しています。体重減少効果や強い血糖効果作用が期待できますが、嘔気などの消化器症状の頻発生度が多くなります。
マンジャロ(チルゼパチド)は、GLP-1作用だけでなくGIP作用を併せ持つ注射薬です。主に2型糖尿病の治療に用いられる一方、体重減少効果が高いため、海外では肥満治療薬としても使用されています。そのため、肥満や体重管理を重視する場合に選択されることが増えています。GLP-1とGIPの相乗作用により、血糖降下作用とともにオゼンピックより強い体重減少効果が報告されており、新しい治療選択肢として注目されています。
また、下図のように両薬剤ともに血糖コントロールに優れていますが、マンジャロの方がHbA1cの低下効果が大きいと報告されています。
日本人においても優れた体重減少効果を認めました。
血糖低下作用においても大変優れた効果を認めています。
マンジャロは血圧低下効果も認めており、将来の心血管イベント抑制効果が期待されていますが、長期データが不足しているため、今後の臨床試験結果を注視する必要があります。一方、オゼンピックは心血管イベントリスク低減効果が証明されており、心血管疾患の既往がある患者にとって重要な選択肢です。いずれの薬剤も優れた効果を持つため、患者の体重、血糖状態、心血管リスク、忍容性を考慮して適切に使い分けることが求められます。
インスリンの働きは、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込みます。
すい臓からのインスリン分泌が少なくなると、ブドウ糖が細胞に渡らず血液中に余ります。その結果、血糖値は上がります。(インスリン分泌不全)
肥満などによってインスリンが作用できないと、ブドウ糖が細胞内に運ばれないため、血糖値は上がります。(インスリン抵抗性)
過剰な栄養摂取によって、ブドウ糖を処理しきれない場合、血糖値は上がります。
高血糖の状態が続くと、すい臓はインスリンを過剰に分泌し続けるため、疲弊してしまい、ついにはインスリンを十分に分泌できなくなります。インスリン治療を行うことで、外部からインスリンを補い、すい臓の働きを軽減させて、休ませることができます。
すい臓が休まることによって、すい臓のインスリン分泌能が回復する可能性があります。
高血糖の状態が持続すると、インスリンの分泌や作用が低下する「糖毒性」という状態になります。インスリン治療で血糖値をさげることで、この糖毒性が改善され、インスリンが正常に働くようになる可能性があります。
インスリン製剤は作用時間により超速効型インスリン、持効型インスリン、混合型インスリンで大きく分類することができます。
製剤名 | 作用開始時間 | 最大作用時間 | 持続時間 | 長所 |
---|---|---|---|---|
ノボラピッド | 約10~15分 | 1~3時間 | 3~5時間 | 安定した効果で初心者向き |
ヒューマログ | 約10~15分 | 1~2時間 | 4~5時間 | 柔軟な食事対応とインスリンポンプ対応 |
アピドラ | 約10分以内 | 1~1.5時間 | 4~5時間 | 最速の作用開始で柔軟性が高い |
フィアスプ | 約5分 | 約1時間 | 3~5時間 | さらに速効性が高く、柔軟な使用可能 |
製剤名 | 持続時間 | 投与回数 | 長所 |
---|---|---|---|
トレシーバ | 約42時間 | 1回/日 | 最長の持続時間で柔軟な投与タイミングが可能 |
ランタス | 約24時間 | 1回/日 | 基礎インスリン療法の標準薬 |
レベミル | 約16~24時間 | 1~2回/日 | 血糖値の安定性が高く、体重管理に有用 |
ノボラピッド(超速効型)を3割、トレシーバ(持効型)を7割の割合で配合している。
冷蔵庫(2〜8度)で保存します。
冷凍したインスリンは効果を失います。又、30度以上の高温環境下に置かれたインスリンも効果を失う可能性があり使えません。
常温(15〜25度)で保管します。
開封後のインスリンペンやバイアルは、冷蔵庫に戻さず、室温で保存する方が推奨される場合があります。(製剤の説明書を確認して使用してください。)
製造元が指定する有効期限内に使用してください。
開封後は、製剤によって保存可能な期限が異なります(通常は28日間が多い)。
製剤ごとに使用期限を確認してください。
必要な道具を準備する
インスリンペンまたは注射器・インスリン製剤・アルコール綿または消毒用綿・廃棄用容器(使用済み針用)
インスリン製剤の確認
種類と用量:処方されたインスリンの種類と単位を確認・外観:濁りや沈殿物がないか確認し、混合型インスリンの場合は、しっかり振る(数回手で転がす)ことで均一にします。
期限
使用期限や開封後の日数を確認します。
注射準備(ペン型注射器の場合)
注射部位を選ぶ
主な部位:腹部、大腿部、上腕部、臀部
部位を消毒する。
注射部位はローテーションするようにしましょう。
注射を実施する
皮膚を軽く摘んで注射針を垂直に刺して注入ボタンを押します。ダイアルが0になってから5秒後ボタンを押したまま抜きます。
糖尿病において食事療法は治療の根幹となります。炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素をバランスよく摂ることや、ビタミン、ミネラルなどを欠かさず摂取することが大切です。具体的には「糖尿病食事療法のための食品交換表」(日本糖尿病学会)という表を利用し栄養バランスの良い食事を摂ります。2型糖尿病の場合、厳格に食事療法を行えばそれだけで血糖コントロールができる可能性があります。医療機関で医師や栄養士から指導を受けたり、講習会に参加したりして、栄養バランスのとれた食事の仕方を覚えるようにしましょう。
運動で体内に余分に溜まったエネルギーを消費することで血糖値が下がりますまた、インスリン感受性が高まり、血糖コントロールがしやすくなります。運動療法としてはウォーキングや自転車、スイミング、ジョギングなどの有酸素運動を1回20~40分、週に3回実施します。週末に集中して運動するといった方法よりも、できれば毎日行える運動を選びましょう。
2〜3ヶ月ほど食事療法と運動療法を続けても、血糖のコントロールが上手くできない場合には薬物療法を検討します。経口血糖降下薬を用いる内服療法と、インスリンなどを注射で補充する自己注射療法の二つがあります。近年、糖尿病治療薬は大きく進歩しており、DPP‐4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP‐1受容体作動薬などが登場しています。これらの薬は治療過程で生じることがある低血糖を起こしにくく、体重を減らす作用を持つものもあります。どの薬物をいつから開始するかは、患者さんの糖尿病のタイプや合併症の進行程度などによって、総合的に判断して決められます。
TOP